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2020年7月22日 (水)

『プラヴィエクとそのほかの時代』

昨日読み終えたのはポーランドの女流作家の作品です。ブログに時々コメンとをくださるaiai様が教えてくださった小説です。

(文章が下手でつまらないことばかり書いていてブログ止めようかしら、ともおもったりするのですが、このような情報が得られると、やはりやっていてよかった、と思うのです)

プラヴィエクとそのほかの時代』 オルガ・トカルチュク著 小椋彩訳 松籟社

        20072201
(横のカップは最近マグカップを割ってしまったことを話したら、娘が送ってくれたものです。ARABIA社のもので深い紺色が気に入っています)

ポーランドの作家の本ってこれまで読んだことがあったかしら?

戸惑いました。ポーランド人の名前ってむずかしいのです。本を読むときは普通黙読します。でもどうやら私の場合は頭の中に音はこだましているみたいなのです。そこで出会ったことのないオンの言葉だとつっかえてしまうのです。タイトルのプラヴィエクにしても発音しやすくはありません。主たる登場人物は製粉所をやっている、ミハイル・ユゼフォヴィチ・ニェビュスキとその妻、ゲノヴェファ、ずっと後から登場するのですが、息子の名前がイズィドル。しばらく口をとがらせたり、歯で下唇をかんでみたり。領主がポビュルスキなんてこれも難しい。彼らと関わりを持つ女性はクウォスカ。母音と母音をつなげて発音するのはむずかしいです。

最初はかなり抵抗がありました。淡々ととした語り口、文章自体は読みにくくはないのですが、この世界になかなかなじめませんでした。この小説は数ページずつの短編で連なっていてそれぞれ、ゲノヴェファの時、とかミシャ(二人の間の娘)の時のように、どれもなになにの時、というタイトルがついています。そうして 淡々と村人のこと、、、だけでなく森の中の悪人とか、水霊カワガラスのことまで。つまり、非現実と思われるが、存在してるらしいことの話まで。
私は数えていませんが84の断章からなっているそうです。最初三分の一はかなり戸惑いながら、そのあとは普通に、最後の三分の一は一気読みでした。時の断片を集めたもの、このことも何か意味があるのでしょうか。

大きく全体をみれば、1914年夏から、たぶん1980年前まで?(東欧民主化より前)のニェビュスキ一家をめぐる話です。この時代というのは第一次大戦、第二次大戦(ナチスドイツの進攻、そのあとロシア軍(Sovietとは書かれていない)の占領)戦後の共産主義化という激動の時代です。
ポーランド南西部のプラヴィエクという架空の町で生活する彼らはまず夫ミハエルの出征、帰ってきて平穏な生活がはじまったってもまた家にロシア人将校を住まわせなくてはならなくなったり、森の中に隠れ住むことをよぎなくさせられながらも、戦争が終わると、また主婦は主婦らしい仕事をきちんとこなし、娘ミシャは恋をして結婚。六人の子を産み、夫パヴェウは仕事に精を出す一方、浮気もして、、。   

村には教会もあります。聖母も天使も実在しているかのように書かれています。どこか異教的、神話的ともいえるような感じもあります。 
クウォスカ、彼女は孤児で物乞いできなければ、体を売ることもいといません。森の中に住んでいて、薬草にもつうじているようです。神が彼女に宿り、その乳は村人の病を治します。
クウォスカの娘ルタはゲノヴェファの息子イズィドル(ミシャの弟)と同じ時に生まれました。イズィドルは水頭症で発育が遅れ長生きしないだろうと言われていました。仕事をすることが出来ないということになっています。でも頭はとてもよくて、体の機能も問題なさそうです。ゲノヴェファの長女ミシャが次の世代では一家をきりまわしています。ルタとイズィドルは仲良しになります。 

領主ポビュルスキは信仰を失い、その時々、夢中になるものをみつけたり、憂鬱になったり、、、でもあるときラビからもらったゲームに夢中になります。ゲームでは、天と地の間に神は八つの世界をつくったのだそうで、それを次々にみつけることに我をわすれ、外の世界の戦争のことも気にしていません。神の第二の世界は、アベルがカインを殺す世界、カインのものを神がとられなかったのはあなたが、神を憎んでいるからだ、そのようなものは生きる価値がない、と。
第五世界にはヨブが出てきます。ヨブは全てを取り上げられて、神と同じように光かがやいているのをみて、神はおどろき、恐れていそいで 全てを返しただけでなく、新しい財産を与え、夢と欲望を、ヨブの光がきえてしまうまで与えるのです。
バベルの塔のような塔を建てる話もあります。

第二次大戦後、共産主義化されて、領主一家はもう屋敷に住むことはできなくなって、クラクフに移住。ミシャの子供たちも村を去ります。

恋するルタに去られたイズィドルが悲しみのうちに哲学的世界に入り込み、弱っていく姿には哀切の年を禁じえませんでした。(感傷を排するような小説ですが、ここだけは違いました)

現実の世界が書かれている一方で、どこか神話的、異教的雰囲気も感じられ、哲学的で難解なところもあり簡単に要約できそうにありませんので、ストーリーはこの辺まで。(最後もよかったです)  

プラヴィェクは宇宙の中心ということになっています。訳者の解説によると、ミシャは パヴェウ・ボスキと結婚するのですがニェビュスキは「天」ボスキは「神」をあらわすそうで、両家が結婚によって結びつくことで子孫を残す、全てが始まる、という意味があるそうです。

第八世界で、<神は老いた。、、、、、神がかれらを世界に閉じ込め、時間に縛り付けたのだが、時々、人々の魂は、神をすり抜け、神のすべてを見通す視界から消える。、、神の彼方に不変の秩序があることを。それは可変のもののいっさいを、ひとつの図案につないでみせる。その秩序には神自身すら含まれて、そこでは、過渡的で散漫に見えるもののいっさいが、時間の外で、同時に、かつ永遠に存在しはじめるのである。>

こうして物語は閉じられてもさらに次の世代へとつながっていくのです。

内容が深くて、すごい本を読んだ、という気分です。間をおいてまた改めて読みたいと思う本でした。aiai様に大感謝です。     

  

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コメント

aiai様 書き忘れました。 
男性の本性は 膨張性、確かに。 でもオルガはそういう男性に魅せられるところもあったようですね。
オルガを巡る三人の男性のうち、そばに付き添って 冒険とは無縁だった フェルディナンドは 「退屈な人」だったのですから。

aiai様
この本をご紹介くださってありがとうございました。内容が深く示唆されることが多いのに、具体的に表現できず感想を書くのに、苦労しました。書きのがしたところに 素晴らしい世界が色々ありました。 例えば菌糸の話とか。 『昼の家、夜の家』はきのこにかんすることがでてくるようですね。
これも読んでみたいですが、買ってまだ読んでいない本がたくさんあって、、、。 今はロシアの映画監督Paradzhanovに夢中ですので、頭ががこんがらかっています。
頭休めにミステリーもよみたい。 『戦場のアリス』 が待っています。 高村薫の本も買ってあります。
ポーランドにはいったことがありません。 ツアーだとアウシュビッツが入っています。みておくべき場所とは思うのですが、つらい。 友人は 一週間夢見が悪かったと言っています。
それにしてもコロナ! 終息したころには 旅体力なくなっていそうで、なさけないかぎりです。

yk様の素晴らしい要約を読んで、私の頭の中のごちゃごちゃが整理されたように思います。私は、読んだらすぐに頭の中から抜けてしまいます。でも、著者トカルチュクの世界観にとても惹かれてノーベル賞で話題になった「昼の家、夜の家」も購入してしまいました。楽しみです。「オルガ」の内容は示唆に富んでいますが、内容は読みやすかったです。オルガの夫も息子も地に足が付いていないようで、男性の本性は膨張主義の夢想家のようです。オルガの堅実な生活感と対照的でした。常に日常の生活に基づいて人生を送るのは、女性のような気が致します。私個人のことですが、この秋にポーランドに旅行する予定でしたのが、コロナでキャンセルになりがっかりしてしまい、余計にポーランド関係の本に興味が湧いております。

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