映画「未来を乗り換えた男」
「水を抱く女」を作ったペッツオリ監督作品であるということから見ようと思いました。ウンディ―ネ役と潜水夫役を演じたパウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキが出ています。2018年の作品でユーネクストで観ました。
観終わって宙吊りにされたような感じから、しばらく抜け出せませんでした。
「未来を乗り換えた男」

作品の紹介にはこうありました。
祖国・ドイツで吹き荒れるファシズムを逃れてきた青年・ゲオルクは、ドイツ軍に占領されようとしているパリを脱出し、マルセイユにたどり着く。行き場をなくしたゲオルクは成り行きで、自殺した亡命作家に成りすますが、人捜しをする美しい女性と巡り会い…。
朝日新聞の評には(新聞はデジタルにしているので検索が容易なのです)大胆な構成、難民問題を想起、とあり、そのあたりを頭にいれて見始めました。
原題はTRANSIT です。会話の中で通過ヴィザと訳していました。一時的な立ち寄りのことです。
ネタバレになると思います。
確かに、大胆な構成です。第二次大戦中と現代が同居している感じなのです。
パリは戦時下らしくドイツ軍の掃討作戦が始まっているようです。
ゲオルクは友人に二通の手紙を作家ヴァイデルのところに持っていくように頼まれます。
パトカーのサイレンが鳴って焦ります。ところがそのパトカーはどう見ても現代のもの。

ヴァイデルの泊まっているホテルに行ってみるとヴァイデルは自殺していました。ホテルのオーナーに荷物を持っていって、といわれて原稿等を渡されます。
ゲオルクは怪我をした反体制運動の仲間(?)に付き添ってマルセイユに行きます。道中その仲間は亡くなります。
一人でたどり着いたマルセイユ。
私はフランス半周ツアーでマルセイユに一泊だけしたことがあります。生憎雨で暗い感じでした。映画に見える丘の上の教会には行ったので少し懐かしかったです。
なんとこのマルセイユの明るいこと。上のパンフレットの写真のとおりです。戦時下ならゴミゴミした薄暗い感じがしていてもよさそうなのに。どう見ても現代です。
戦時下を思わせるのは宿泊するホテル。そうしてゲオルクは一貫して第二次大戦中の時間を生きているようです。
マルセイユで亡くなった男の家を訪ねます。男の妻は聾者です(なぜ聾者と設定したのか、意味がありそうです)男の子ドリスがいてゲオルクは仲良くなります。北アフリカからの違法移民です。まさに現代の問題!住んでいるアパートは郊外の現代的アパート群の一つです。
託された手紙の一通はメキシコ領事館あてだったので(ヴァイデル夫妻はメキシコに行こうとしていたのです)ゲオルクはメキシコ領事館でこれを渡し、謝礼をもらうつもりです。ここは戦時下で、ドイツ軍が迫ってくる中逃げ出したい人びとがひしめいています。
ところが担当者はゲオルクをヴァイデルと誤解しています。結局、ゲオルクは自分をヴァイデルと偽ってメキシコへ渡ろうと 考えます。(ヴァイデル夫妻のヴィザがあるのです)
ところで彼が預かった手紙に二通のヴァイデルの妻が夫にあてたものがありました。一通は別れを告げる手紙、もう一通は会いたい、という手紙です。
マルセイユの町で黒いコートを着た女性に肩をたたかれます。人違いされたようです。何度も出会います。夫を探すヴァイデルの妻マリーだったのです。ゲオルクは心惹かれるようになっていっていきます。

彼女はメキシコに渡ろうとしている小児科医と住んでいます。彼は熱烈にマリーを愛しています。彼は自分のヴィザを持っています。然しマリーのヴィザがないのです。マリーのヴィザは夫、つまり今はゲオルクが持っているのです。
彼女は聞きます。「捨てられた者、捨てた者、どちらが先に忘れられる?」「捨てた人は孤独なだけ」
夫を捨てておきながら、会いに来てくれると信じて探しまわっているのです。そうでありながら、医者と愛し合い、ゲオルクとも、、、。
暫く合わなかった少年ドリスのアパートを訪ねると、二人はいなくなっていて家は不法移民らしき北アフリカの人達がひしめき合っていました。
結局マリーとゲオルク二人で船に乗ることにします。しかし港への車の中で、夫と船で会えると嬉しそうに話すマリーをみていて自分は身をひくべきだとゲオルクは車を下ります。
用事を思い出してといってアパートに行き医者をおこして支度させます。自分は悪者になることにしたのです。乗船券とヴィザを売るということにして発たせたのです。
意気消沈してカフェに座っていると、マリーが人探しする風にやってきてすぐ出ていきます。
驚いて港に駆け付け、乗船名簿を確かめると、彼女は乗船していたことは分かりました。
ところがあろうことか、船は機雷を受けて、全員死亡した!ということでした。
最初は 医者が残した山登り用品を使って危険なピレネー越えで脱出するつもりでしたが、マリーが来るかと思うと発つことができなくなり掃討軍がやってきた、というのにカフェに座り続けます。(ピレネー越えというと思想家ベンヤミンを思い出します。ユダヤ人でピレネーを越えて逃げようとして、服毒自殺をした、とも殺されたともいわれています。)
これで終わりです。最後一瞬,笑みをうかべていました。
もう宙吊りにされた気分です。
エンドロールが映るされるなか流される音楽が妙に明るい感じで心情にミスマッチもいいところ? いやこれが面白いと思ってしまいました。
~どこへ行くにはわかっていてもどこに行くのか分からない
未来とは確かなもの
答えをだすための時間がほしい
といった歌詞で、それを楽しげにうたっているのです。
映画のラスト、ちゃんと納得のいく終わり方をしてくれると心おきなく席をたつことができるのですが、この映画のように宙吊りにされたような状態だと何日か映画の周りをさまようことになります。
そうしてそういう引きずる映画の方が好きなのです。
マルセイユの場面、広い場所、明るく晴れやかな場所、それなのに人が誰もいない、なんだかシュールな感じがする場面がありました。
現実であって現実ではない感じです。ここが居場所ではない、ということかもしれません。
マリーは夫にあうことを切実に願っていながら他の男に抱かれています。これは道徳がどうのこうのと言った次元ではなく安心できる場所がほしい、ということなのかと思ったりしました。
マリーが(本当は彼女も夫は既に死んだと気が付いているかもしれない)必死に夫を探すように、今度はゲオルクが死んだはずだけれど、生きているかもしれないと、マリーを待ち続ける、何か哀しい人間のさが、
それを笑い飛ばすような妙に明るい最後の音楽。
何とか自分を納得させようと色々解釈を試みています。「水を抱く女」より好みでした。
追記 (19日朝)
私は17日にこの映画をみて昨日(18日)四苦八苦しながら これを書きあげ、アップする直前、もしや?とおもってkikuko様のブログをのぞかせていただくと、すでにこの映画について書かれていました。ここで読ませていただくと自信を無くしますから、急いでアップしてしまいました。
そ後読ませていただいて、タイトルについても書きたかったのに忘れていたことに気が付きました。朝ベッドの中であれこれ思いを巡らしました。
日本版のタイトルは多分、どのような題だと観客をあつめられるか?という観点から創られるのでしょう。これは未来という言葉を使ってSF的とおもわせたかったのでしょうか?
男は当然ゲオルクでしょう。そうしてヴァイデルの未来へと乗り換えるのです。ところが乗り換え失敗です。
トランジット、トランジットと頭の中で繰り返しているとトラジェディ(tragedy・悲劇)に音が似ていることに気が付きました。
transitのままだとゲオルクだけでなくtransitを巡る人びとのつらさ、そうして何人かの死も浮かび上がってきます。
これはもう、絶対 transitのままにしておくべきだったと思います。
あともう一つ書き忘れたことは最初のうちはゲオルクと他者の会話だったのが、会話だけでなくナレーションも入るようになっていることです。話しているのはカフェの主人のようですが、声はゲオルクです。
現実の出来事ではなく客観的に語られる事柄にすり替わるのです。
これがエンドロールで流れるあの楽し気な歌と結びつくのかもしれません。
単なる思い付きですが、一応メモしておきました。
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kikuko様
ユーネクストは毎月 2000円以上会費として払っています。 そうすると 1200pointもらえて 新作は有料なので、このポイントを 使います。 高いものは500円くらい、もっとも最近かわったのか、 399円になっています。 競争相手にあわせたのかもしれません。
あまりみないので、今は 2200ポイント残っています。
3人は見られますから、こどもたちにも使わせています。(ネットフリックスもそうですね)
持っているとポイントを越えると課金されます。
韓ドラなぞみられると、一話毎にポイントが必要で、足りなくなるとこちらに請求が来るので文句を言ったら最近みなくなったのか、ポイントがだぶつき気味です。
私が観て面白いと思ったものは 「明日までだから」 と教えたりするのですが、 忙しいのか「見る暇がなかった!と言うのがほとんどです。
これからは Amazonのストアものぞいてユーネクストを継続するかどうか、決めます。Huluの方がお安いようですが、本数は少ないらしいです。
投稿: yk | 2021年9月20日 (月) 12時21分
Amazonは価格設定がちょっと複雑で、Prime会員特典で無料になるアイテムは古いものが多いです。レンタルは、最高399円で、「水を抱く女」や「未来を乗り換えた男」は、この価格です。48時間ですので、のんびりしていると期限がきてしまいます。最安は会員限定で100円です。いまのところネットフリックスとAmazon praimの2本立てですが、ユーネクストのほうが新しいものが多そうですね。
投稿: kikuko | 2021年9月19日 (日) 21時10分
kikuko様
アマゾンでプライム会員にはなっていますが、比較的新しいものも観られるとはしりませんでした。
Amazonは 古い、とたまにテレビドラマの見逃しをみる程度でした。ストアのところにいけばよかったのですね。 DVD化されるとすぐみられるのでしょうか?
それならユーネクストに入っている必要はありません。
あの映画 脱出したいと願う人間だけが 40年代に生きていて他の人は現代。ゲオルクも40年代を生きていると思いこんでいましたが、唯一テレビと言うのがおかしかったのですね。気が付きませんでした。
私はユーネクストですが、劇場と違って何度もみられるのがいいですね。
リビングのテレビでみたあとは部屋のパソコンで 早送りしながら気になるところを見直します。
色々不思議に思うところの多い映画でした。
マルセイユって危険地帯と聞いていますが、あれほど人気がないなんて。
あのエンドロールで流れる音楽のワイワイ楽し気なリズム感、何なんでしょう。
監督はケムにまいていやったぞ、してやったり と思っているわけではないでしょうね。
投稿: YK | 2021年9月19日 (日) 19時46分
私こそYKさまがお書きになる前に駄文を綴らないと、絶対に無理と焦っておりました。Amazonで48時間のレンタルですが、かえってよかったかなという部分もあります。まず一度観たあとで何度も繰り返し観られて、メモも取れること。最初は理解できなかったことが2度目でやっとわかった箇所がたくさんあります。
まずマリーの美しい筆跡の2通の手紙。1通目の別れたいという手紙は届いていて、作家の自死の一因になりますが、2通目はゲオルクがパウルという同志に頼まれたマルセイユで待っているという手紙なんですね。医師リヒャルトの車でパリを逃れたマリーは、誰をいちばん愛しているのか。監督は意地悪です。
犬を連れたユダヤ人女性の最期も衝撃的でした。注意力散漫なので、映画館なら見落としたかもしれません。アメリカの領事とゲオルクの会話も中身が濃いいですね。難民たちが住んでいる集合住宅の前の広場に置かれたベンチは、いま日本で急激に減っていっるタイプ。理由はホームレスが横にならないためですって。
電話はダイヤル式なのに、自動車は新しい。ゲオルクはラジオとテレビの修理技術者だと言いながらテレビが見当たらない。この不思議さも意図的なのでしょう。度々出てくるお店のドアまで気になります。
昨日、ミャンマーから亡命したサッカー選手の報道がありました。とても暗い表情でした。
投稿: kikuko | 2021年9月19日 (日) 13時17分