『青い壺』有吉佐和子著
アマ〇ンでみつけました。有吉佐和子、懐かしい名前です。といってもこれまで読んだのは新聞小説『複合汚染』だけ。あとは映画です。
『青い壺』という小説も知りませんでした。星の数が多かったので買ってみたのです。
『青い壺』有吉佐和子著 文春文庫
これは新装版で、初出は文芸春秋 昭和51年1月号~昭和52年2月号
昭和51年は西暦で言うと1976年です。どのような時代だったかあらためて日本史年表をめくってみました。ロッキード事件、というのが出ていました。首相は田中角栄から三木武吉になっています。ちなみに『複合汚染』は75年です。
でもここでは政治や社会問題などについては全く書かれていません。
ただ最後になってわかるのですが、この壺が焼かれてから10年たっているのです、ということは主に昭和40年代の話、ということになります。
私は大学を出て就職もしないで結婚、子供はすぐにはできなかったのですが、30代始めの頃は幼い子供たちに振り回されていました。
何故こんなことを書くかというと、この小説、居心地がいい、というか私にはしっくりくるなじみの世界だったからなのです。
昭和40~50年ごろ、社会は色々あったかもしれないのですが、社会に出たことのない人間にとっては家族とご近所が世界のすべて。影響を受けたのはオイルショックによるトイレットペーパー騒動くらいです。
この小説、最初と最後に男性がでてきますが、他はほぼ女性が主人公。多くは生活にゆとりがありますが、ない場合でもそれはそれ、自分とその周りのことにしか心は向けていません。登場人物の社会的背景、というかご主人の社会的地位は我が家よりずっと上のところが多いのですが、ものの考え方、というかふるまい方に近しいものを感じました。時代の空気とでもいえばいいのでしょうか。しっとり落ち着いたものを感じ、読みやすい小説でした。
青磁の壺をめぐる短編連載小説集です。
第一話
京都、金閣寺に近いところらしいのですが、そこに窯を構える陶芸家、牧田省吾。青磁専門です。なかなか父親を超えるような作品ができなかったのですが、その日、自分でも感動するような色艶のいい品位のある作品ができたのです。経管と呼ばれる筒形の花器です。
省三が留守の間に壺が無くなっています。妻の治子はいつもの古道具屋ではなく、デパートの人がやってきて、東京の本店の美術コーナーで扱いたいというので渡したというのです。
こうして第二話から、青磁の壺は人から人へと渡っていくのですが、その持ち主、家族の気持ちや様子が語られていきます。
壺は退職した夫婦が上司へのお礼として購入。何かお礼を、という段階にいたるまでの退職して夫がいつも家にいるようになりうっとうしがっている主婦のグチ、まあ、そうでしょう。この第二話のラストは ちょっと深刻。
第三話は副社長に届けられた、花器。副社長夫人はお花に心得のある人ですが、経管は生けにくい形らしく、苦労しています。遊びに来た孫娘、その母親である娘の婚家の相続争いなどの話が語られる、など
その後、お花教室にきている独身女性に花器は譲られ、それは 、、、と次々別の人の手に渡ったり、盗まれたりするのですが、そこで語られる女性たちの話、心配、グチ、昔を懐かしむ様子などが興味深いのです。
どれも面白いのですが、第九話の女学校卒業後五十年目の同窓会の話は笑えました。
こうして第十三話 もう十年たっています。
省三は個展を開くまでになったようです。美術評論家の家に挨拶に行きます。そこで青磁の壺に出会うことになるのです。
この話がまた傑作。
この本、お正月休みにふさわしいかもしれません。
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