『とるに足りない細部』 アダニーヤ・シブリー著
読み終わっておおきく息をついて、声も出ませんでした。よかったです。
『とるに足りない細部』 アダニーヤ・シブリー著 河出書房新社
第一部と第二部に分かれています。
ネタバレありです。
第一部
イスラエル南部のネゲブ砂漠、ガザ地区のすぐ外側、エジプトに近いイスラエル軍宿営地で起きた事件が語られます。
将校と少数の兵士からなる一団はエジプトとの境界線を画定し境界侵犯を防ぐこととアラブ人の残党を一掃することが使命です。植林し、農業や工業のプロジェクトを実現させるそのために有害な敵を倒すのです。
ネゲブを旱魃の犠牲や、アラブ人とその動物たちに無駄遣いさせてはならない!のです。
1949年8月9日から数日間のできごとです。
見つけたアラブ人たちを銃撃します。そこに少女が一人いたのですが殺さず宿営地に連れ帰ります。
将校が強く命じたにもかかわらず兵士たちは順に少女を犯したうえ結局殺してしまいます。
虫に刺されて強い痛みがあり、また腹痛にも悩まされ意識ももうろうとなるなか、将校になすすべはなかったようです。
第二部
現代。新聞でこの記事を読んだパレスティナ人の女性は、このレイプの日の25年後が自分の誕生日であることに気づきます。痛ましいとしか思われないような事件の細部より、この日付の一致といったとるに足りない細部のほうが彼女をこの事件にひきつけたのです。
その縁にひかれるように、現地へ向かうのです。
病的に神経質と思われるこの女性は境界線に非常にこだわりがあります。
ここでは物事の間に多くの境界線が引かれていて、その線を意識しながら、それに沿って動くことに意義がある。そうすれば、手痛い結果を防ぐことができるし、何はともあれ安心感を得られる。
イスラエルはA地区、B地区などとわかれていて、簡単には他の地区にはいけないらしいです。それで別の地区の女性に身分証を借りてでかけます。境界線が怖くて震えながら。
砂漠、このあたりは礫漠でしょう。山を隔てた向こうヨルダンの景色を思い出しながら読みました。
どちらにもキリストノイバラという木が出てきます。その葉でキリストのいばらの冠がつくられたということになっているそうですが、この名前は暗示的です。
ラストに声もでませんでした。
著者はパレスティナ人で現在はベルリンに拠点を置いて著作活動をおこなっているそうです。イスラエル南部をさまよう女性は、かの地に置いてきた自分なのでは?という気もしました。
例によって中途半端な紹介ですが、薄い本で数時間で一気読みしてしまいました。
でも心は重いです。
暫く他のものは読みたくない気持ちです。次の本はもう届いているのですけれどね。
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